会長就任ご挨拶
一般社団法人特殊鋼倶楽部
会長 清水 哲也
2023年5月の一般社団法人特殊鋼倶楽部の定時総会、理事会において前任の藤岡愛知製鋼株式会社社長の後を受け、第18代会長に選任されました大同特殊鋼株式会社の清水哲也です。
特殊鋼倶楽部は、1952年(昭和27年)5月16日に特殊鋼専業メーカーと専業問屋との業界発展のための交流の場として任意団体でスタートしましたが、時代を経ると共に、メーカーでは特殊鋼専業に加えて高炉および普通鋼電炉、流通業では総合商社も会員として加入し、1983年(昭和58年)には通商産業省から社団法人の認可を受けるに至りました。その後、2013年(平成25年)には内閣総理大臣から一般社団法人への移行が認可され、現在に至っております。現時点では、会員はメーカー25社、流通業者100社という規模になっております。
創立以来の70年余を振り返ってみますと、創立当初の1952年度の我が国の粗鋼生産は691万トンであり、そのうち特殊鋼粗鋼は47万トン、粗鋼に占める特殊鋼の比率はわずか6.7%でしたが、2022年度には粗鋼8,784万トン、うち特殊鋼粗鋼1,973万トン、特殊鋼比率22.5%にまで拡大・成長してきております。
言うまでもなく特殊鋼は最先端技術の「粋」であり、鉄鋼材料の中で独特の高い機能を有する材料であります。自動車をはじめとする輸送機器や産業機械、建設機械、工作機械等、幅広い産業分野の中核部品材料として使われております。特に自動車等の性能・安全性を支える重要保安部品に加え、最終製品や部品の製造工程における性能やコスト削減の鍵を握る加工性をも左右し、我が国の製造業の競争力の根本を支える重要な素材です。また家庭においてもキッチンや器具では広くステンレス鋼が使われるなど国民経済生活と密接な関わり合いを持つものであり、特殊鋼産業が人々の生活を支えているといっても過言ではありません。
最近の日本経済は、新型コロナウイルスへの対応と経済活動の両立を図るウィズコロナの段階からアフターコロナの段階へと移行し、総じて緩やかな持ち直しが続いております。しかしながら、原燃料価格の高騰や電力料金および物流費の増大によるコストの上昇、地政学リスクの高まり、サプライチェーンの混乱による供給制約、ゼロコロナ政策終了後の中国経済の動向等、多くのリスク要因を抱えております。
特殊鋼業界におきましても、需要面では国内市場の縮小・構造変化、供給面では、製造コストの増大、海外特殊鋼メーカーや他素材との競合激化など厳しい状況にあります。このような背景もあり、2022年度の特殊鋼熱間圧延鋼材生産量は1,636万トンとなり、前年度の1,832万トンに比べ10.8%減となりました。
特殊鋼業界の将来を見据え、特殊鋼倶楽部としましては、この2年間GX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けてカーボンニュートラルの推進のための活動に取り組んで来ましたが、この課題は引き続き業界全体で取り組む必要があるものと考えます。また、生産から流通までの各段階におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進も喫緊の課題であります。
さらに、これまで培って来た特殊鋼技術を核として、航空宇宙分野、海洋分野、エネルギー分野など新たな領域に進出するための研究開発、技術開発を推進することも極めて重要ですし、今後の特殊鋼業界を支えるあらゆる分野での人材を育成していくことも継続的に取り組んでいく必要があります。
激しく変化する社会経済環境に対処するため、製販一体の団体であるという特殊鋼倶楽部の特徴を最大限に活かしながら、メーカー会員・流通会員が連携・協力して、我が国特殊鋼の競争力の強化のために取り組んでいくことが必要と考えております。そのための基盤を提供すべく努力してまいりますので、関係各位の特殊鋼倶楽部及びその会員各社へのご支援をお願い申し上げます。
(2023年5月31日)